トランスポーター(2)

 ●物語展開までも、ザ・昭和スタイル。もはや王道。

 昭和スタイルの主人公を描くには、昭和スタイルの物語しかあるまい。実際にそのように展開する。監督のリュック・ベンソンは、昭和生まれの日本人ではないのだが……。

 ワケありそうな荷物運びの依頼を受けるのは、いつものことだ。さっさと片づけて、普段の孤独に快適な生活に戻るつもりだった。

 ところがどうにも不審なので、己のルールを破って運ぶ荷物の内容を確認。中身はかわい子ちゃん(魅力的な若女子を、昭和男性はそう呼ぶ習慣があった)。

 どうも誘拐の片棒をかつがされてるらしいが、そんなのは俺の知ったこっちゃない。いつも通りに仕事するだけだ。この女が殺されようが、犯されようが、それも知ったこっちゃない。

 しかし、無駄に苦しませるのはアレだから、飲み食いくらいはさせてやるか。ちと後ろめたくもあるし。アラサーの東洋系女性は魅力的で、どうやら俺に惚れてるらしい。

 だが、それも知ったこっちゃない。

 とりあえず女子を運び終えてひと仕事終えたら、車が大爆発。依頼者の野郎、俺を殺そうとしやがった。愛車はスクラップだ。なめたことしやがるタコは、制裁するしかない。

 アジトに乗り込んでカンフーアクションで腐った奴らを全員ボコボコにしてやったが、どうもスッキリしない。壊れた愛車は戻ってこねえし。

 全くついてねえ。それもこれも、運ぶ荷物を確認するという、己のルールを破ったせいだ。二度とこうゆうマネはしないと心に誓って帰宅した。孤独で快適な生活に戻るつもりだった。

 なのになぜか先ほどのアラサー女子が一緒だ。東洋系だし、ラーメンでも食わせて追い出すつもりだったが、彼女は欲情。生理前のムラムラ期だったようだ。

 チッ、嫌なシーズンの到来だぜ。

 孤独で快適な一人暮らしを壊されたくはなかったが、彼女が積極的すぎたので、つい誘惑に負けて挿入。やっちゃうと、つい情にほだされてしまうのが俺の悪い癖だ。だからセックスはしないようにしているのだが、ついついその戒めを破ってしまう。

 ワケありなアラサー女子の事情に巻き込まれ、映画の残り時間の半分を費やして、ワルどもをボコボコにするハメになった。

 ……って、書いてくあいだに、つい主人公のジェイソン・ステイサムになりきってしまい、文体が一人称になってしまった。居心地いい作品ってそうなんだよなあ。つい主人公と一体化してしまう。

 何を言いたかったというと、自ら選んだぼっち暮らしなんだが、それでも若女子(といってもアラサーだが)にセックスを求められ、ついつい食べてしまう据え膳。

 ムカつく野郎はボコボコにして、最後は女子の依頼を断り切れずに大暴れしたが、セックスに目がくらむようなバカではなく、かわいそうな子供たちを助けるためでした……的な言い訳まで用意されていて、ある種の中年男性にとって心地いい物語展開なのだ。

 いい車に乗りたい。お気に入りのスーツも着たい。ムカつく野郎はボコりたいし、若い女に目がくらむバカにはなりたくない。年相応にアラサーちゃんとハメる賢明な男でもありたい。一発セックスしただけで、女の言いなりになるバカではないアピールもしたい。子供たちのためなら、いつでも一肌ぬげる男でもありたい。

 そんな欲望を過不足なく満たしてくれるのである。

 特別な何かや、新しさはないが、それでもやはり、居心地はいいのである。