安倍晋三と阿部寛(1)

 池井戸潤作品は、ついついチェックしてしまう。作品内容はすばらしいのはもちろんだが、なにより売れてるからだ。それも、現代日本の感情をとらえてる気配がある。

 マーケティングしたくなるよなあ……。

 なんて、よこしまな目線で視姦してしまう。自作の参考にしてしまいたくなるのである。自分は醜くて狡い人間だが、これはもうしょうがない。

 その上でじっくりと下町ロケット陸王を分析したわけだが、やはり今は「強いリーダーシップ」が求められていると感じた。池井戸作品で阿部寛役所広司が表現しているのは、つまるところそれしかないのだ。

 地上波ドラマの下町ロケットは一言で要約できる。

 「阿部寛がひたすら演説と説教をする番組」

 もう、ほんとそれだけ。それだけのために、この番組はつくられている。阿部寛の演説を輝かせるためだけに、全ての創意工夫が集約されているのだ。

 そして阿部寛が体現しているのは、強いリーダーシップである。

 ロケットを打ち上げるという、明確なビジョン。それが佃製作所を支え、全社員に浸透している。阿部寛は「技術には絶対の自信がある」と吠える。

 思わず視聴者は感動してしまう。

 しかしそれは「日本の技術はすごい」という、日本すごい教の信者になってしまったからではない。社員を信じる阿部寛のゆるぎない態度にしびれるのである。

 阿部寛が「技術には絶対の自信がある!」と宣言するのは、社長としての自分の先見の明や経営方針を誇っているのではない。自分が経営する会社の、社員たちの技術能力と勤勉さを誇っているのである。

 阿部が絶対の自信をもっているのは、技術ではない。自分が雇用する社員たちなのである。阿部が「技術には絶対の自信がある!」と宣言するとき、視聴者は裏の意味を無意識に読み取る。

 「ウチの社員には絶対の自信がある!」

 社長である阿部寛が、社員に絶大に信頼し、それを帝国重工であろうが自分よりデカいライバル企業であろうが、照れも恥ずかしがりもせず、正面から堂々とデカい声で吹聴してまわるから、視聴者はぐっときてしまうのだ。

 熱いものがこみあげてくるのである。

 ドラマの下町ロケットで象徴的だなあと感じたのは、吉川晃司と阿部寛が二人で語り合うシーンである。

 吉川晃司はとにかく背が高い。そんな彼がロケットエンジンの前で、スーツを着こなしてイケメンぶりを表現している。そしてその横に立つ阿部寛は、吉川晃司よりも背が高いのだ。

 吉川晃司よりもデカい阿部寛

 阿部のあまりのデカさに爆笑してしまったが、それだけ見栄えのある役者だからこそ、あの演説と説教が似合うのである。これがイケメンとはいえ、おチビちゃんだったら、何の説得力もない。

 強いリーダーシップを感じさせないのだ。

 一説によると阿部寛はあまりにも背が高く、チェ・ホンマンのような巨人イメージがついてしまうのを本人と事務所が恐れたそうな。なので実際には身長190センチを超えているにもかかわらず、身長を低くサバをよんでいるらしい。

 そんな裏話がある。

 リーダーとして見栄えのいい、高身長な阿部寛が演説するからこそ、あの演説に説得力が産まれる。主演を誰にするか考えた時に、迷わず阿部寛を選んだプロデューサーはすばらしい。

 そして強いリーダーシップが求められていると、日本の状況を分析したとしよう。するとどうしても安倍晋三を思い出してしまう。

 阿部寛安倍晋三

 どっちもアベだしなあ……。

 50音はアイウエオの「ア」から始まるから、日本の先頭をアベが立つのは、名前からして既にリーダーシップがあるよなあ……。

 鼻くそをほじりながら、ついついユルい冗談をかましてしまうわけだが(しかも金玉をかきながら)、2018年の段階で日本人が求めていた「強いリーダーシップ」を体現していたのは、阿部寛安倍晋三であり、それらは共通していたのではないか?

 そんな論調で次回以降、掘り下げてゆきたい。