中国人は平和ボケしていない(2)

 河の水面が凍結すると、脱北のシーズンだ。

 脱北に挑戦する北朝鮮人は、凍結した河を走って、中国国境に逃げる。しかし狙撃手に撃たれて、死ぬ。体温で氷が溶けるので、身体が半分くらい埋まるらしい。その上に雪が降り積もり、死体が白く隠れる。

 文章にすると誌的だが、春先になると地獄だ。温かくなると細菌の活動も活発化し、死体の腐敗がはじまる。河には行かないようにしてるが、風が吹くと人体が腐ってゆく「熟しすぎた林檎のような甘く、嫌な臭い」が届いてしまうそうだ。

 服に匂いがつくと嫌だなあ……などと考えながら、中国遼寧省出身の彼は煙草を吸い、死体の匂いをごまかすらしい。

 死体の掃除だなんて高級なことは誰もしないと、なんの感情をこめず彼は言う。誰かがやっているのかもしれないが、自分は知らないそうだ。野犬や野良猫が食べてるのかもしれない。

 ブラックジョーク好きの彼は、「上海なら蟹が食べて、美味しい上海蟹が育つでしょう」と笑う。白骨は見たことがない。

 殺されるとわかってて、なんで脱北するかなあ……と、ついつい平和ボケした疑問が思い浮かんでしまうのは、私が日本人だからだろうか?

 「凍結した河を走って脱北する北朝鮮人は、頭がおかしくなってる。北朝鮮の暮らしがツラすぎて、逃げ出したくてたまらない。狙撃されて死ぬほうが、生き続けるよりも楽ですからね」

 そう説明されると、脱北者はある種の自殺をしたがっているようだ。ただそこまで深いニュアンスの会話は、日本語に堪能な彼ですら、まだできない。

 「彼らが最もこわいのは、北朝鮮に連れ戻されること。拷問されますからね。そんな目にあうくらいなら、狙撃されて死ぬほうがいい。狙撃手の腕はいいから、一発で急所を撃ち抜いてくれるし」

 北朝鮮で生きるくらいなら、狙撃されて死んだ方がまし。当局に捕まって拷問されるくらいなら、射殺されたほうがまし。

 つらすぎる北朝鮮の暮らしに耐えかねて頭がおかしくなった(極度のうつ状態のことだろう)北朝鮮人は、死ぬのはこわいし嫌だろうけど、殺されるほうがましだと腹をくくり、凍結した河を走る。

 そんな環境下で成長したから、彼は北朝鮮事情に関心を持たざるをえないのだろう。中国人朝鮮族だって、周囲にいただろうし。北朝鮮と国境を隣接するとは、本来はそんな危機的空気を吸うということなのだ。

 ……で、北朝鮮と陸地で国境が隣接する中国人はその調子なのに、同じく陸地で国境が隣接してる韓国人は衝撃的なまでに平和ボケしてるのではなかろうか?

 兵役まである国なので危機感はあると先入観をもってしまいがちだが、実は兵役やってるのに危機感すらもてない平和ボケした人たちなのかなあ……と考えてしまうのである。

 冷静に考えれば、核攻撃や開戦はないとは思う。しかしこのタイミングで北朝鮮よりの人物を韓国大統領に据えようとする、韓国人の民意が意味わからないのだ。トランプ大統領はあらゆる脅しをかけている状態だというのに。

 これも中国遼寧省出身の彼から聞いたことだが、ビン・ラディンを暗殺した部隊が既に韓国入りしてるそうだ。「金正恩を実際には暗殺しないでしょうけど」と彼は真剣な表情をする。本気で殺す時は暗殺部隊の居場所を、秘密にするからである。

 今回は暗殺する気はないから、わざとバレるように暗殺部隊が韓国入りしたというのが彼の読みである。当たってる気がする。

 中国人はその調子なのに、日本人と韓国人の危機感はゼロ。

 日本人と韓国人は平和ボケするけど、中国人は平和ボケしない。

 そんな印象を受けた。

 中国が超大国にノシ上がったのは、平和ボケしない国民性も理由の一つではないかとも、思ったりした。自国内がそもそも平和ではないから、平和ボケできないのかもしれないが。