東京都中野区

 東京都中野区は好きなところと嫌いなところがある。ここから出てゆきたいといつも思っているが、他に行けるところもない。渋谷区、目黒区、港区に住めるなら、引っ越すだろう。でもそれらが居心地よさそうにも、思えないし。金もないしね。

 中野区は夢を追ってる人々がすむエリア。夢を追ってるが、つかめてないから金がない。金がないから中野区に住む。人はいつか夢をつかみ、金をつかみ、中野区を出てゆく。そして港区に住む。芸能系の仕事で売れたら、そうなる。

 夢をあきらめても、やはり中野区を出てゆく。芸能系の夢に見切りをつけ、定職につき、恋人と暮らし始めるからだ。お互いの勤め先に通いやすいところに引っ越すので、そこは中野区ではなかったりするのだ。

 炎上覚悟で踏み込んだ表現をすると、夢を追う貧乏人が住むのが中野区でもある。

 安居酒屋でひとり酒してると、最も割安なメニューを求める金なさげな連中を見る。着てる服が貧乏くさく、バイト店員に細かい質問をするのが特徴だ。

 飲み放題とボトルキープではどちらが得なのか? 5人以上だと割安になるのか? 値引きクーポンはもらえるのか? いまアプリ登録した場合、ビール一杯サービスは適用されるのか?

 徹底したコスパへのこだわりにウンザリするが、お通しカットして黒ホッピーを飲んでる私だから偉そうなことは言えない。ホッピーの残量を見ながら、あと何杯のナカを追加注文すべきかシビアに分析するケチくささだから。

 卑しく舌打ちしたりもする。

 新規開拓した店の焼酎が、アルコール度数が25度ではなく、20度だったりして。ボッタクリ居酒屋じゃねえかよ。25度なら割安だが、20度ならむしろ割高だもの。

 しかし店員にクレームをつけたり、ネットに悪口を書きこんだりはしない。それをしないことに小さな誇りを感じたりしてな。下らないことだが、おかげでクレーマー客にならないですんでいる。

 安居酒屋にたむろするのは劇団員が多い。分類するときれい系やかわいい系になる女のコだが、華はない。エロい感じでもない。観察する視線を外した瞬間に、すぐ忘れてしまう顔をしている。印象に残らない。

 記憶に残るのは整形手術だ。

 たいていは目と鼻の片方だけをやる。両方はしない。それをするとプライドが傷つくのかもしれないし、そこまでするのはなんだか怖いのかもしれない。でも両方する金がないのが最大の理由だろう。

 彼女たちは、いろんなものがない。

 個性がない。芸能仕事がない。金がない。

 玉つき事故みたいだよな。個性がないから、芸能仕事がなく、芸能仕事がないから金もない。

 たまにコンビニで芸能っぽい女性を見つける。骨格がしっかりしていて、巨乳。薄い布地のコットンワンピースを着ている。貧乏劇団員よりは目をひくから、キャバクラのバイトでそこそこ稼いでそうなタイプだ。平日昼間に部屋着でコンビニにいるから、そうゆうことだろう。

 おでんを買っているから美意識高い系だ。

 こんにゃく、白滝、大根、牛すじを選んでいる。こんにゃくで空腹をごまかしながら、牛すじでコラーゲンを補給。大根は味がしみて美味しいから。食事には快楽も必要なのだ。

 グラドルじゃねえよなあ……とあたりをつける。いつもコンビニで立ち読みするマンガ週刊誌で見たことないからだ。20代中ごろの年齢だから、無理だったりもする。

 アメーバブログで偶然に彼女を見つけた。

 舞台に上がりながら、ケーブルテレビの番組にも出ている。ブログは一応はアメーバ公式で、所属事務所もある。検索したら売れてるコはいなかったけれど。

 顔を見る限りでは特に整形はしてなかった。してるのかもしれないが、金のかかる優良病院で施術したのだろう。私が見てバレる程度の安い技ではない。

 豊胸はしてないだろうなあ。ビキニやヌードをしないのに、豊胸をやる意味はないからだ。天然バストはありがたいね。手をあわせて拝みたくなる。後光がさしてる感じだ。

 個性があるので芸能仕事が増えたり、整形で美人化してキャバ稼ぎが増えると、女のコは中野を出てゆく。そして港区にたどりつく。

 港区で見る風景は、また違ってくる。