ケープタウン(2)
●母親がキーになる
南アフリカが舞台なので、アパルトヘイトが重い影を落とす。黒人警官はつらい目にあってきた。しかし彼は恨みや怒りはあるはずだ。しかし、それををこらえ、白人たちに対して融和的な態度をもつ。負の連鎖を戒める人格者なのだ。
アパルトヘイトさえなければ、黒人警官は結婚もできたし家庭ももてた。彼が唯一もてる家族は、自分の母親だけなのである。
そんな男だったのだが、ある衝撃的な展開により怒りがMAXに。殺人マシーンと化し、最後には悪の親玉を殴り殺す。その時の音楽の悲しい盛り上がりが、また泣かせるのである。
憎悪の殺人は彼が最も嫌うこと。
でも、そうせざるをえないのである。そうなってしまった悲しみが、ひしひしと伝わってくるのだ。恥ずかしながら、涙目になってしまった。
最後に黒人警官も出血多量か何かで死ぬのだが、自殺に等しいんじゃねえかなあ。憎悪で殺人をした自分を、許すことができなかったのでは?
●圧倒的な南アフリカの景観が胸にせまる
圧倒させられたのは、南アフリカの景観だ。安いつくりの家が立ち並ぶ貧民街。それとは正反対の、上級白人さまがすむ豪華な邸宅。
強風が吹く、真っ白な砂浜が広がるビーチ。砂漠もCGで描いたのかと思うくらい、非現実的な光景だ。あまりにも美しい世界なのに、そこにあるのは癒しきれないアパルトヘイトの傷と貧困。
それらが圧倒的なリアリズムとともに、おしよせてくるのである。
もう、辛抱タマランチ会長! なのであった。
原題はズールーで、いいタイトルだと思う。黒人警官が主人公だと伝わるし、またいろいろな含みがある。しかしケープタウンという日本語タイトルも、そんなに悪くないと思う。
南アフリカの重く暗い現実を、圧倒的なケープタウンの風景とともに描いた映画でもあるからだ。これはこれで正解だったと思う次第である。