安倍晋三と阿部寛(3)

 私の中での安倍晋三のイメージは最悪だった。

 第一次安倍政権で大失敗した、頼りない三代目というシロモノだ。成蹊大学出身というのも、なんだか中途半端な学歴である。総理が務まるのは、東大出のバリバリのエリートか、あるいはたたき上げの中卒高卒か、どっちかしかないと思っていたのだ。それは今も変わらない。

 そんな安倍ちゃんのイメージが一変したのは、東京五輪の招致に成功したスピーチを確かリアルタイムで見た時のことだ。

 「放射能は完全にコントロールされてます。東京五輪は絶対に安全!」

 晋三がそう言い切った時に、私は腰が抜けた。だって福島原発放射能漏れが、きちんと処理されてるのかどうか明確にわからないまんま、東京に住んでいたからである。

 私は知人とよく話した。

 福島原発が安全なのかどうか、よくわからない。そもそも危険なのかどうが、よくわからない。

 そんなぼんやりした状況をつくることが、国民をコントロールするコツなのだとわかってはいた。

 ぼんやりとした不安を持たせつつ、危険な状況への心の準備をさせる。しかしぼんやりとした安心を与えることにより、暴走をさせない。

 そんなサジ加減の元で、政治家と官僚が国民をコントロールしようとしていると思っていたのである。

 そんな中で、あの頼りない二代目総理の安倍晋三が、全世界にむかって「絶対に安全!」と言い切ったのである。それも満面の笑顔で。

 ついに狂ったかと思った。

 いや、安全かどうかどころか以前に、危険かどうかすらわかんない状況下で、絶対に安全だなんて言いきったらマズいでしょ。何を根拠に安全なんて言い切るの? それも全世界を相手に? 無責任にすぎでしょ?

 巨大な疑問符が頭の中に点灯した。

 しかし同時に、ここは根拠はなくても絶対に安全と、言い切るしかない局面だなあとも悟ってもいた。たとえ大嘘でも、大嘘をつかなきゃならない局面は人生にはある。あるとしたら、ここだなあ……とも。

 なんだかとんでもないヤツを総理にしてしまったと、私は驚いてしまった。

 同時に衝撃を受けたのは、安倍ちゃんがいるスピーチ会場の雰囲気が一変したこと。全世界の外国人が、「アベが絶対に安全と断言しやがった! 何がおきても俺たちは責任をとらなくてすむ! アベに騙されたと言い訳すれば、責任のがれできる!」という心で一つになったように見えたのだ。

 実際にどうかはわからない。しかし、私にはそう見えた。そうとしか見えなかったのだ。勝手に、そう思ってしまったのである。

 全世界を相手に平気で嘘をつけるヤツ。そして全世界を騙せるヤツ。少なくとも騙されたふりをさせられるヤツ。

 そんな男でないと、今の日本国総理大臣は務まらないのではないか? だって今のニッポンは最悪すぎなんだもん。

 安全かどうか安倍ちゃん本人が信じてるかどうか怪しいものなのに、満面の笑顔で自信まんまんに言い切る彼の様子に、なんだかとんでもなく異色で個性的な総理大臣が爆誕した衝撃を受けた。

 そして私の安倍研究が始まった。

 ……えーと、話が全く下町ロケット阿部寛にまで進まないが、とりあえず安倍ちゃんのアンダーコントロール宣言、「東京五輪は絶対に安全!」と、阿部寛の「技術には絶対の自信がある!」は、根拠のない説得力に満ちているところが似ていると指摘しておきたい。

 続きます。