まほろ駅前多田便利軒(1)

 「まほろ駅前多田便利軒」を鑑賞。

 

 ●古谷実の「稲中卓球部」の影響を受けた?

 

 古谷実の「稲中卓球部」の影響化にある作品ではないか? 笑顔をつくれと言われて、変な笑顔しかつくれないシーンを、古谷実のマンガで見たような気がするのだ。

 もう一つは稲中卓球部に出てくるホームレスの中年男性。あしたのジョーみたいな髪型が印象的な井沢と親しくなるキャラクターがいるのだ。

 彼は水族館のイルカに感情移入しているのだが、ある時にイルカが彼に話しかけてくるのだ。「人間のあなたがイルカの私と一緒にいるつもりなのだろうけど、本当は違うの。イルカの私が、人間のあなたと一緒にいてあげてるのよ」と。

 他人に必要とされつつも、同時に他人を必要とするのが人間なのだ……という深みのあることが描かれているのだ。ところがホームレスの男性は「驚いたなー」ですませてしまい。それ以上は掘り下げることはない。

 ギャグ漫画だから掘りさげる必要はないのだが、しかし印象的なシーンである。このニュアンスが映画の後半で、主演の瑛太と共演の松田龍平の関係性で描かれるのだ。

 瑛太にとって松田は突然に押しかけてきて、住むことになった男だ。何か孤独をかかえてそうな松田に、瑛太は一緒にいてあげるつもりだった。

 しかし実は逆で、松田が瑛太に一緒にいてあげていたのだと、瑛太は気づいてしまうのである。松田が瑛太の元を去り、いなくなってからそのことに瑛太は気づく。

 結果は松田が瑛太の元に戻ってきてハッピーエンドになるわけだが、これは「仮の結末」と感じた。真の結末は、やはり松田が瑛太の元を去ることだろう。

 そして松田の小指を切断したという過去の罪の意識から、瑛太が解放されることである。

 松田龍平のキャラづくりにも、古谷実の「ヒメアノール」の影響を受けたのではないかと感じた。喧嘩は強くはないが残酷な行為が平気という松田のキャラが、ヒメアノールに出てくるのである。映画では森田剛が演じた。

 瑛太と松田の関係性も同様だ。瑛太は松田の小指を事故で切断した過去があり、それに後ろめたさと罪の意識を感じている。そしてそれが二人を結び付けているのだ。

 これもヒメアノールの主人公と、殺人男との関係性と同じなのだ。殺人男は学生時代にイジメられ、オナニーさせられたのだ。それを主人公は見て見ぬふりをしたのである。

 そしてその罪の意識が、二人を結びつける。

 なんか、こう、似た感じがあるなあ……と私は思った。