ゲゲゲの女房
ゲゲゲの女房を鑑賞。テレビドラマではなく、映画のほうだ。
●駄作
駄作である。
シナリオがダメ。
序盤の30分に吹石一恵と宮藤勘九郎の間にコミュニケーションが全くないので、宮藤のどこに吹石が愛情を感じているのかサッパリわからないのだ。
宮藤勘九郎が吹石に対して旦那として何のコミュニケーションもとろうとしないため、極度のコミュ障か、重度のアスペルガーか何かと判断するしかないのである。
安ギャラで貸本漫画を描いてはいるものの、宮藤は自分のマンガに対する愛情があるようにも見えない。ダラダラとお絵描きしてるだけなんですよ。
ラストでどうやら幸せになったらしいのだが、説明不足で何がなんだかわからない。
ひどいシナリオですね。
宮藤と吹石の二階に間借りしてる住人は、妻に逃げられた男なんだが、これはもう一つの宮藤の分身なんだろうなあ。
マンガ家としては失敗して妻に逃げられ、絵の仕事をしながら食いつなぐだけの味気ない生活。
宮藤もそうなるかもしれなかったということだろう。
●役者の演技力はある
役者に演技力はあっても、演技するとこが無いから、ボンヤリとセリフを読んでるだけになってしまう。演技力を要求される場面が無いから、演技することないんですね。
役者がかわいそう。
ぐっとひきこまれたのが2カ所だけあった。
ひとつめは子供を産む産まないで吹石一恵の感情が爆発するシーン。吹石やるじゃん! ……と思わず前のめりになってしまったが、それだけで終わってしまう。
シナリオに何も書かれてないから、役者が演技することが何も無いのである。
いっそここは役者さんがアドリブで演技を大量に追加すべきだったのではないか? シナリオライターと監督が無能なのだから、せめて役者を放し飼いにして、大暴れさせる方がマシというもの。
ふたつめは収入が少なすぎると税務署が調べにくるところ。
「怒ると腹がへるから、怒らないようにしている」と宮藤勘九郎の伏線のセリフが渋く光る。そしてあまりに無理解な税務署の小役人どもに宮藤がキレる。
いいシーンだ。
宮藤の演技も迫力がある。
しかし、シナリオはそこから何も掘り下げず、ダラダラと時間だけが過ぎていくのである。
勘弁こきまろ。
つまんねえんだよ。
ダメなシナリオのダメ映画だが、この二カ所だけは光っていた。ここをもっと掘り下げたりふくらませたりすべきだったんじゃねえかなあ……。
●画面はいい
この監督はシナリオの才能はゼロだが、絵的なセンスはあると見た。低予算で厳しかったと想像するが、その範囲内でよくがんばっている。
紙の原稿の絵が動き始め、アニメーションになるシーンは思わず引き込まれてしまう。
もっとこのシーンを活用して、吹石一恵が旦那のマンガの才能に惚れるシーンとして活かせばよかったんじゃないかと思った。だって彼の才能を認める場面がないんだもん。
説明がなさすぎなんだよ。
昭和30年代だか40年代だかの映画なのに、平成としか思えない鉄塔やマンションや車が画面に写りこむのが酷評されている。時代考証がデタラメで、興ざめする人々は多かったようだ。
しかし、そこがいいと私は感じた。
昭和の遠い過去の物語ではなく、平成の現在とも共通するテーマを描いた映画でもあるのだ。時代考証があえてデタラメなほうが、よかったと思われる。
過去と現在が混じりあう映画ではあるが、現実世界と妖怪が溶けあう映画でもある。過去と現在、現実と妖怪。それらが入り混じった世界観をつくることに成功したと私は判断した。
●トータルな分析。
シナリオはダメ。役者の演技はよし。画面のセンスはよし。
そんな映画である。