何もない男の死(1)
何もない男が死んだ。
友人が自宅を訪ねたら、死んでたそうだ。警察が親族と連絡をとり、葬儀は行われた。政治運動にかかわっていたから、その仲間たちによって偲ぶ会も行われる。
彼は何もない男だった。
大学を出た様子もないし、定職についてる気配もなかった。金がないから家賃の節約のために、男どうしで部屋をシェアして暮らしていた。
家族もいない45歳だ。
政治運動で知り合った男から、宅急便のバイトを紹介されたが、すぐに辞めた。対立するネトウヨから職場に電話があり、政治運動をやってるとチクられてクビになったと本人は言っていた。
嘘だろう。
いくらネトウヨだって、彼の勤め先まで知るはずがない。チクリの電話がかかってくるはずがないのだ。
金がないからバイト始めたものの、宅急便の仕事がキツくて続かなかったのだろう。ネトウヨからの嫌がらせでクビになったと嘘をつき、辞めたと考える方が自然だ。
宅急便のバイトを紹介されてまでやるというのも奇妙だ。普通はバイト情報誌や、バイト系サイトを見て応募する。そうしなかった理由を想像してみた。
「楽で儲かる仕事を紹介してくれ」という意味で仕事の斡旋を依頼したのに、ブラックで有名な宅急便にまわされたら期待外れだ。辞めるしかない。
紹介してくれた男は政治運動の幹部クラスだ。
彼の顔をつぶすわけにはいかないから、かったるいがバイトすることにした。でもダルいんで辞めたとは言えないので、ネトウヨにチクられてクビになったことにしたってことじゃなかろうか。
そういう、ダメ人間だった。