田沼たかしは統合失調症?(1)
アスペルガーについて考えると、鬱になってしまう。
Google検索しただけで、「アスペルガー 悪化」「アスペルガー 遺伝」などという嫌な検索ワードに遭遇してしまう。アスペルガーは悪化するし、遺伝してしまうのだ。
両親や祖父母から自分に遺伝するし、自分の子供や孫にも遺伝してしまう。もちろん遺伝しない場合もあるのだが……。
アスペな同僚の田沼たかし(33歳)を見ていて、努力すれば治らないせよ克服できると考えていた。応援するつもりでいた。
「ちょっと変だが、根はいいヤツ」
……といったあたりに田沼を落とし込めると思っていたのである。
だけど本人がどれだけ努力しても、アスペは悪化はするのだ。子供にも遺伝してしまうし。むろん必ずそうなるわけではないが、妙な期待をしても裏切られかねない。
事態の深刻さに気づき、ぞっとした。
他にも検索すると、鬱になることばかりに遭遇する。アスペ男と結婚したものの、女心がまるでわからない夫にウンザリして鬱になる妻。結果、夫婦関係は破綻し離婚。
アスペルガーが理由の離婚はよくあることだ。
また別にこんなケースもある。
アスペな旦那への愛情は無くなったが、「旦那を介護するようなもん」と無理やりに自分を納得させた女性もいる。もうじき産まれる子供にも父親は必要だ。
旦那には何も期待しないが、子を産み育てることで、女性として幸せになろうと頭を切り替えたのだ。
そこまでは良かったものの、子供が成長するにつれて挙動がおかしくなってきた。嫌な予感にさいなまれ、我が子に何が起きているか母親にはわかった。
しかし我が子のためにと不安を押し殺し、母は子供を病院につれてゆく。嫌な予感があたらなければいいと祈りながら。
医師の診断によると、やっぱり子供はアスペルガー。
旦那のアスペが子供に遺伝してしまったのである。
子供を産んで幸せになるはずが、家族にアスペが増えただけ。アスペ増殖。迷惑が二倍になってしまったのである。
絶望のどん底に落とされながらも、彼女は孤軍奮闘する。
でも、そんな妻を夫はまるで理解しない。だってアスペだから。他人の心が理解できない障害があるのだから。
妻はさらに鬱になる(カサンドラ症候群という)。
さすがに旦那もこれではいかんと思うわけだが、アスペだから何も理解できないし、何もできない。機械や昆虫が家族や旦那になりすましてるみたいなもんなのだ。
ディストピアSFやホラー映画みたいな状況になってしまっているのである。
妻子のために何かしたいが、アスペだから妻子が何を考えてるかわからない。そして何をしていいかもわからない。
アスペな旦那も鬱になる。
鬱になってる場合ではないが、そもそも問題解決の能力が本人に無いのだからしょうがない。なぜ女性を幸せにする能力が無いのか?
アスペルガーだから。
結局、アスペルガーが一人増え、鬱患者が二人増えただけの、不幸な結婚になったわけだ。
自分はアスペルガーではないと言い張る、田沼の気持ちがよくわかったのである。
アスペなだけで結婚すると女性を不幸にしてしまうし、下手すると子供まで不幸にしてしまう。
ちょっと検索しだけで、恐怖に押しつぶされるのだ。
田沼たかしが、自分をアスペルガーだと認めない、理由の一つがこれである。
彼の気持ちは非常によく理解できるのだ。
だって検索しただけで私が恐怖に凍りついてしまうほど、深刻な発達障害がアスペルガーなのである。まして当事者の田沼は、もっとへこんでしまうはずだ。
しかし同情の余地はあるものの、アスペのせいで仕事に支障が出てしまっている。
なんとかして自分の発達障害とむきあってもらわねばならない。
どうしたら、そうなれるのやら……。
暇な時間になると、そんな思案をしていた私が、衝撃的な噂を耳にした。
田沼たけしは統合失調症だというのだ!
アスペルガーで統合失調症って、なんだか話がうまくできすぎてる。そんなことあるのかなあ? と疑問に思った私は、調査を開始することにした。